大阪「新世界」を守ってきたのは極道だった
「ヤクザと憲法」東海テレビ取材班編集 岩波書店・1800円+税
反社会勢力というのだという。暴力団のことである。私などからは、安倍(晋三)政権の方がよほど“反社会勢力”に見える。いわゆる世間の人はそうは見ないのだろう。
「突破者」の宮崎学が、暴力団がいない国が世界に1つだけある、と言っていた。北朝鮮である。あの国はトップが暴力団だからというオチがつくのだが、暴力団もしくはヤクザを排除して、北朝鮮のような国をつくろうとするのか。
この本の副題は「『暴排条例』は何を守るのか」である。1992年に暴力団対策法(暴対法)が制定され、その後、相次いで暴力団排除条例(暴排条例)が施行された。
しかし、私は西部邁らと反対の記者会見をしたが、暴対法や暴排条例は、そもそも、法律の原則に反するものだった。
法律は何かをやったら罰するわけで、行為を対象とするが、暴対法や暴排条例はヤクザであるという“身分”を対象としている。ヤクザでないフツーの人が殺人や詐欺等の悪いことをすることがある。それを罰するのが法律なのに、行為ではなく“身分”を罰しようとするから、さまざまなひずみが出てくる。
指定暴力団を追ったドキュメンタリー映画「ヤクザと憲法」をつくった東海テレビ取材班がその内幕話をつづったこの本で、監督を務めた土方宏史がこう憤慨する。
「暴力団員は銀行口座を作れないんですよ。暴力団員の子どもだからと、幼稚園を追い出されることも起きているようです。これって変じゃないですか」
いろいろ困ることもあるだろうに、すべてをオープンにすることを承諾した“主演”の川口和秀(二代目東組二代目清勇会会長)は「私たちは、ヤクザの存在を肯定しませんよ」という土方の言葉に「それはそうや。私もいないほうがいいと思います。それでええです」と応じている。
実に刺激的なこの本で、大阪は新世界のホルモン屋の女主人がこう語るが、それを否定できるのかということである。
「(ヤクザは)『元気してるか』って覗きにきてくれたり守ってくれる。警察がなに守ってくれるの? なんか事件あって、警察署に電話しても誰も来いへんで。小遣い取りにきよるだけや。自分らは悪いことしとってヤクザは追放。おかしいやろ。なあ、この新世界という街いうのはやっぱり極道が守ってくれたんや」★★★(選者・佐高信)