料理ができない男性はいい料理本に出合っていないからだ

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「まいにち裕三無敵ごはん」グッチ裕三著/小学館 1000円+税

 一緒に仕事をしている42歳の男性から深刻な悩みを聞いた。それは、地方に暮らす同氏の母が入院をしたものの、74歳の父親が一人自宅に残され、まるで料理ができないためコンビニ弁当を買うぐらいしか食の選択肢がないということだ。

 当然野菜も足りなくなるだろうし、脂質糖質過多になる恐れがあるわけだが、同氏は「ウチの父親は現役の時代から料理などしたこともないし、母がずっと作ってくれていただけに今さらどうにもならないんですよ……」と苦しい胸の内を語った。

 私自身は毎日料理をする43歳の男だが、料理ができない男性はその人が悪いだけでなく、男性にとって「しっくりと来るレシピ本」があまりないことも原因なのでは、と考えている。たとえば、カレーだけを集めた某レシピ本を見てみよう。

「メティ(スパイスの一種)を効かせた優しいカレー」の場合、材料が「鶏モモ肉」「タマネギ」「サツマイモ」「水」「ムング豆(緑豆)」「トマト」「カスリ・メティ」「トゥルシー(ホーリーバジル)」「アジョワンシード」「ギー」「塩」とある。

 この段階で「よし、そろそろワシも料理ぐらいせねば!」と考えた74歳の男性はレシピ本をソッと閉じ、コンビニで「弁当+ひじきの煮物」でも買って健康に注意しなくては……と自炊を断念するのである。

 そんな中、料理習慣のなかった男性におススメしたいのがこのグッチ裕三氏のレシピ本だ。同氏のレシピは私も長らく見ていたが、一つの特徴として「身近な食材を少し手をかけるだけで何やら本格風にしつつウマくする」というものがある。

 これがよく表れたのが本書収録の「元祖もやしそば」である。材料は「中華麺」「豚こま切れ肉」「もやし」「玉ねぎ」「菜種油」「スープ=水・中華スープの素(ペースト)・だしじょうゆ・オイスターソース・砂糖」「ねぎ油(作り方も紹介済み)」。

 いずれも身近な材料で、しかも調理手順も「パーッと炒めてジャーッとかけて、麺は水を切れ」みたいなものなのだ。私がかねてレシピ本で問題視していたのが、「手抜きに罪悪感を抱く」傾向である。グッチ氏の場合「中華スープの素(ペースト)」も平気で活用する。これって「味覇」とか「創味シャンタン」でしょ? グッチ氏は「踊りながらつくれるぐらい簡単です」とそれを恥だと思わない。こういったレシピ本でなければ「料理童貞」の諸兄は料理の楽しさを知ることができぬだろう。

★★★(選者・中川淳一郎)

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