これは新しいマクロ経済学の教科書だ
「ヘリコプターマネー」井上智洋著/日本経済新聞出版社
ヘリコプターマネーというのは、政府や中央銀行が、まるでヘリコプターからばらまくように、市中に貨幣を供給する究極の景気浮揚策だ。このヘリコプターマネーは、日本では評判が悪い。まるで打ち出の小槌のようにお金が生まれる魔法がありうるはずがないという倫理観があるからだ。
しかし、ヘリコプターマネーのアイデアは、ノーベル経済学賞の受賞者であるフリードマンが、1969年に提唱し、バーナンキ前FRB議長が導入を推奨するなど、多くの偉大な経済学者が支持をしている。
ヘリコプターマネーは、大きく分けて、政府紙幣を発行する直接方式と、国債を中央銀行が買い取り、その資金を財政資金に充てる財政ファイナンスという2つの方式がある。そして、「財政ファイナンスとしてのヘリコプターマネーは、昔から行われており、今も行われており、これからも行うしかない政策だ」というのが、著者の中心的な主張だ。その主張を裏付けるため、著者は丁寧な論証を積み重ねている。ヘリコプターマネーの歴史、その効果と費用、そしてヘリコプターマネーにまつわる経済理論だ。
経済理論の部分は、少々まわりくどくて、分かりにくいと感じるかもしれない。しかし、著者の主張は、シンプルかつ明確なので、けっして複雑ではない。ただ、数式を使えば簡単に書けるものを、あえて数式を使わずに、数学アレルギーの人でも理解できるような丁寧な論述をしているのだ。
だから、この本は、新しいマクロ経済学の教科書なのだと思う。そして、ノーベル経済学賞を授与してよいほど、画期的な本でもある。著者は、ヘリコプターマネーの本質は、金融政策と財政政策の組み合わせだと喝破している。最近、安倍総理の経済参謀を務める浜田宏一氏も、金融政策と減税を含む財政政策の組み合わせでないと、アベノミクスの完全な効果がないことに気付いたと述べている。
アベノミクスでデフレから脱却できない理由は、金融緩和に減税を組み合わせなかったことだ。消費税率を下げること、それがデフレ脱却のカギを握るのだ。この本をすべての政治家と官僚にも読んで欲しい。★★★(選者・森永卓郎)