「マラス 暴力に支配される少年たち」工藤律子著
米国では、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラスの中米3カ国から単独で不法入国しようとする子どもの急増が問題になっている。なぜ子どもが危険を冒してまで国境を越えようとするのか。その背景には、若者のギャング集団・マラスがあった。住んでいた地域を支配するマラスの脅しや暴力から逃れるため、彼らは危険な旅に出ていた。
もともとストリートチルドレンの問題に取り組んでいた著者は、この実情を知って、実際に中米に足を運んでマラスについて取材しようと決意する。スラム育ちの子どもが、仲間と金と力を求めてマラスに入っていく過程、暴力が激化し犯罪が日常化していく様子、マラスになるか、マラスに脅されて巻き上げられるか、それ以外の生き方がない実情、キリスト教と出合って神父として生きなおすことになった元マラスの青年の証言などが、追い詰められた子どもたちを放置してきた冷酷な大人の姿を映し出す。
第14回開高健ノンフィクション賞受賞作品。
(集英社 1800円+税)