「沖縄 抗う高江の森」山城博明著
「高江の森」とは、沖縄の米軍北部訓練場の4000ヘクタールの返還と引き換えに6つのヘリパッドが移設された建築地周辺に広がる森のこと。国は、高江の森がある沖縄島の北部「やんばる」を含む琉球諸島の世界自然遺産への登録を目指している。
特に高江の森は、やんばるの中でもとりわけ自然が豊かで、希少動植物の宝庫として学術的価値が高い。
本書は、ヘリパッド建設によって消滅が危惧される貴重な動物たちや、ヘリパッド建設に反対する住民と強行した国の攻防の姿を通して、権力の暴走を警告するフォト・ドキュメンタリー。
ヘリパッド移設地一帯には、世界でやんばるにしか生息していない22種の固有種と126種の絶滅危惧種などの貴重種を含む1313種の生き物が確認されている。
冒頭、その代表ともいえる国の特別天然記念物に指定されているノグチゲラと天然記念物ヤンバルクイナの写真が並ぶ。
続く写真は、彼らの生息地を奪うように進むヘリパッド建築工事の様子だ。何台もの重機が深い森を切り裂いていくさまを撮影した写真が見る者の心までえぐる。
その上空をあの悪名高きMV22オスプレイが飛び交う。昨年末、沖縄の県民を震撼させたMV22オスプレイ「墜落」直後の残骸が散乱する名護市の海岸の写真もある。機体を収容するガスマスクに防護服の米軍関係者の姿と、のどかな海岸の風景のミスマッチに言葉を失う。
そして何よりも本書の核心部は、ヘリパッド建設に反対する市民と、彼らの声に斟酌することなく3万本もの樹木が切り倒され、ダンプ3630台分の砂利が運び込まれて猛然と進められる工事の様子、そしてあろうことか彼らを「土人」呼ばわりして排除しようとする機動隊とのにらみ合いや実力行使の生々しい写真だ。
1973年、駆け出しの報道カメラマンだった著者は、同訓練場内で行われた米軍のゲリラ戦闘訓練を取材。ベトナム戦線を想定して行われたその訓練には、高江区の住民たちも駆り出され、南ベトナム現地民の役目をさせられたこともあったという。やんばるは県民の水がめでもあるが、当時訓練に参加した退役軍人は、1960年代に訓練場に枯れ葉剤が散布されたと証言している。
完成したヘリパッドでオスプレイの訓練が始まれば、ノグチゲラなどの音や鳴き声で交信する動物は生息や繁殖が妨げられ、自然林を分断して切り開かれた道路によって天敵が森に入り込む。
安倍首相は、返還による沖縄の負担軽減をアピールしたが、その背後で今も昔と変わらず行われている自然破壊と相変わらずの沖縄県民軽視の実態を告発する。(高文研 1600円+税)