少年時代に夢中になった虫たちとの再会
「わくわく昆虫記 憧れの虫たち」丸山宗利・文 山口進・写真
かつて夏休みの自由研究の定番といえば「昆虫標本」だった時代があった。現代っ子がポケモンを集めるように、男の子たちは昆虫採集に夢中になったものだ。
本書は、そんな少年時代の虫好きが高じて、研究者になった著者が、その原点ともいえる子どものころに出合った昆虫たちを思い出とともに紹介する図鑑。
例えば噛みつくと首を切っても死なないことからその名がついた「クビキリギス」(キリギリス科)。子どものころ、近所のお兄さんが服に噛みついたクビキリギスの頭をハサミで切ったことがあったが、本当に噛みついたままだったという。クビキリギスは、口の周りが赤く、その凶暴そうな顔つきから動物の血を吸いそうだと「チスイバッタ」との異名も持つが、後に実は見た目の恐ろしさとは裏腹に、草食性の平和主義者だと知ったという。
その他、オニヤンマやカブトムシ、アゲハチョウなど定番に加え、そのカッコよさに幼稚園のころから憧れ続け、大学生になってやっと捕まえることができたという「ダイコクコガネ」(コガネムシ科)や、小学校の林間学校で訪れた日光で初めて見ることができた幻想的な「オオミズアオ」(ヤママユガ科)、海水浴に出かけた房総の海岸で捕まえたアカスジカメムシ(カメムシ科)など、身近な55種を、とびっきりの写真とともに紹介する。
写真家の山口氏の写真は、詩的でどこか懐かしさを感じさせる。それもそのはず、氏は誰もがお世話になったあのジャポニカ学習帳の表紙写真を撮影してきた人なのだ。収録された写真は、著者の丸山氏の子どものころの気持ちと視点を想像しながら撮り下ろしたという、ぜいたくな一冊。虫が好きだった子どものころの思い出がよみがえる。(講談社 2000円+税)