「進化の不思議がわかる本」気になる4冊

公開日: 更新日:

「毒々生物の奇妙な進化」クリスティー・ウィルコックス著 垂水雄二訳

 かつて地球上を我が物顔で闊歩していたティラノサウルスは、もう姿かたちもなく、ただ化石だけがその存在がいたことを伝え、彼らがいた時代には気配すらなかった人間が今や地球の王として君臨している不思議。今週は、そんな進化の秘密の世界を案内してくれる本を紹介する。

 毒を持つ動物たちの愛おしくも恐ろしい生態と、彼らの持つ毒の可能性について教えてくれる面白サイエンスエッセー。

 毒がある動物には、フグのように経口摂取などで危害を及ぼす有毒動物と、ヘビの牙やミノカサゴのトゲのように毒素を別の体内に積極的に送り込む特殊な手段を持つ毒液動物に分かれる。

 5416種いる哺乳類の中で毒液動物は12種。中でもカモノハシの雄は唯一「毒針」を持つ哺乳類なのだそうだ。毒液動物が相手を痛めつける目的は、餌の捕食と防御の2つだが、カモノハシだけは唯一、雌を巡る雄同士の戦いのために毒を使う特異な動物なのだという。

 その毒液は強烈で、刺されると大量のモルヒネを投与しても効果がないほどの激痛に襲われる。

 カモノハシの毒腺では異なる83もの毒素遺伝子が発現。まるで多様な毒液生物のすべてから遺伝子を切り取り、カモノハシのゲノムに張り付けたようだという。

 こうしたカモノハシの特性を紹介しながら、毒液と進化の過程や人間の毒液研究の歴史なども解説。遺伝学の進歩によって、カモノハシの毒液がもたらす激痛が鎮痛剤開発のヒントになる可能性が出てきているという。

 その他にもゴキブリの脳に毒液を注入してマインドコントロールするエメラルドゴキブリバチや、毒蛇よりも強力な毒を持つアンボイナガイなど、恐ろしい毒液動物とその研究者たちが続々と登場。最先端の研究の成果にも触れながら、そうした動物の毒液の不思議と可能性を解き明かしていく知的好奇心をくすぐるお薦め本。(文藝春秋 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  2. 2

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  3. 3

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  4. 4

    中居正広氏「性暴力認定」でも擁護するファンの倒錯…「アイドル依存」「推し活」の恐怖

  5. 5

    大河ドラマ「べらぼう」の制作現場に密着したNHK「100カメ」の舞台裏

  1. 6

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  2. 7

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  3. 8

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  4. 9

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  5. 10

    トランプ関税への無策に「本気の姿勢を見せろ!」高市早苗氏が石破政権に“啖呵”を切った裏事情