直したつもりでも直ってない
「ヨーコさんの“言葉”わけがわからん」佐野洋子著、北村裕花絵 講談社 1300円+税
モズクのようにドロドロ絡み合った男女関係、切りたくても切れないネバネバ納豆親子、ワサビたっぷりの寿司のごとく外からは分からぬがツンと涙が出る夫婦生活。科学で解明できない人間関係の不思議をシニカルな視点で書いたエッセー「ヨーコさんの“言葉”わけがわからん」が実に味わい深い。
ベストセラーの絵本「100万回生きたねこ」の著者として知られた佐野洋子さんは、震災の前年に亡くなっているから、本書は再編集されたものだが、その言葉は古くなるどころか今の時代に、私自身にもピタリと当てはまる。
「(反抗期に)あんな親には決してなるまい、と固く決意するのである。親のふりを見て我がふりを直すのである。直したつもりになるのですね。しかし、これは直らない」
そんなことはない。化粧っ気がなく頑固で愚痴の多い母のようになるまいと私は努力してきたはず……だが、鏡には小鳥が飛んできて巣作りを始めそうなボサボサの頭をした私が映っている。
いや待て、愚痴は母ほど多くはない。なぜなら愚痴を言い合える親しい友達がほとんどいないからだ。
おっと大丈夫か、自分。まあ顔が売りのモデルでも接客業でもないから八方美人の必要はないし……って頑固な上に言い訳がましい負の性格がプラスされていることに気が付き、ハッとする。
読み進めながら「そうそう」と相づちを打ちつつ、改めて自分の人生を見つめ直す機会となった。
「父が嫌い。変わり者でさ」とぼやく友人がいたが、その本人も光るシイタケ柄のTシャツを着て出社してた。私と一緒で本人が一番、気が付けないものだ。今度の誕生日にこの本をプレゼントしてみようか。きっと笑って父上を許せるかもしれない。
あと2年――死の宣告をされた洋子さんは、「人生が急に充実してきた。毎日がとても楽しくて仕方がない。死ぬとわかるのは自由の獲得と同じだと思う」と喜ぶ。
「こういう見方もあるのか」と、人生が楽になるヒントがたくさん詰まった本である。