「遠く海より来たりし者」暖あやこ著

公開日: 更新日:

 製薬会社の広報で社内報を担当していた外村薫は、できたばかりの社史編纂室に異動を命じられる。入社3年目の頼りない後輩、町田康と2人で、創立100周年を迎える社の資料を片っ端から集め始めるが、戦後間もなくから約20年間の資料が著しく乏しい。不可解な空白を埋めるべく、地方支社の小さな資料館を訪れた2人は、ガラクタの山の中から、ある女性の手記を見つけ出す。そこに記されていたのは、瀬戸内海の孤島に隠された驚愕の真実だった。

 前作「恐竜ギフト」で登場した新生の科学ファンタジーノベル。

 そこは地図にも載っていない島。半世紀前、運命に導かれるように島にたどり着いた女性は、誰にも言えない秘密を抱えていた。ロングスカートの下に隠した「それ」は、伸び続けている。この異変の手がかりがこの島にある。

 古代生物「カブトガニ」の「青い血」の力に魅せられた科学者と、島民を厳重な管理下に置いて大規模な人体実験を続ける製薬会社。より長い命と幸せを貪欲に求め続ける人間を罰するように、異形の子供が現れる。だが、物語は人間のおぞましさを断罪することで終わらず、二転三転。複雑な人間関係の謎が解かれ、読後にはぬくもりさえ残る。(新潮社 1800円+税)

【連載】ベストセラー早読み

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇