「遠く海より来たりし者」暖あやこ著
製薬会社の広報で社内報を担当していた外村薫は、できたばかりの社史編纂室に異動を命じられる。入社3年目の頼りない後輩、町田康と2人で、創立100周年を迎える社の資料を片っ端から集め始めるが、戦後間もなくから約20年間の資料が著しく乏しい。不可解な空白を埋めるべく、地方支社の小さな資料館を訪れた2人は、ガラクタの山の中から、ある女性の手記を見つけ出す。そこに記されていたのは、瀬戸内海の孤島に隠された驚愕の真実だった。
前作「恐竜ギフト」で登場した新生の科学ファンタジーノベル。
そこは地図にも載っていない島。半世紀前、運命に導かれるように島にたどり着いた女性は、誰にも言えない秘密を抱えていた。ロングスカートの下に隠した「それ」は、伸び続けている。この異変の手がかりがこの島にある。
古代生物「カブトガニ」の「青い血」の力に魅せられた科学者と、島民を厳重な管理下に置いて大規模な人体実験を続ける製薬会社。より長い命と幸せを貪欲に求め続ける人間を罰するように、異形の子供が現れる。だが、物語は人間のおぞましさを断罪することで終わらず、二転三転。複雑な人間関係の謎が解かれ、読後にはぬくもりさえ残る。(新潮社 1800円+税)