「本の未来を探す旅 ソウル」内沼晋太郎、綾女欣伸編著 田中由起子写真

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 日本ではネット書店の普及で町の本屋が次々と姿を消しているが、お隣の首都ソウルでは、今、空前の本屋ブームで「独立書店」と呼ばれる個人経営の個性的な書店が、週に1軒のペースで生まれているという。一方で、「独立出版物」と呼ばれる個人で作る本も毎日1冊のペースで出版されており、それらを集めたブックフェアには若者たちが殺到しているそうだ。それらのムーブメントを牽引しているのは1980年代生まれの若い世代だという。

 本書は、そんな書店ブームを牽引する人たちへのインタビュー集。

 トップバッターは、独立書店の先駆けともいえる「THANKS BOOKS」代表のイ・ギソプ(李起燮)氏。本業がグラフィックデザイナーの氏が書店を経営するきっかけは、学生時代から通っていたホンデ(弘大)地区の本屋さんの廃業だった。国土が日本の約4分の1の韓国ではオンライン書店があっという間に定着し、日本と同じように、いやそれ以上の勢いで多くの街の書店が消えていったという。

 そんなときに、クライアントのビルのオーナーから、空きスペースの利用について相談を持ちかけられ、本が主人公の文化空間をつくることを提案。自らプロジェクトを進め、当時、ソウルには存在しなかった休息空間、文化空間としての書店を開業し、現在は飲み物や雑貨、店内で使っている家具も販売する。

 取り扱う家具のメーカーや、雑貨、CDレーベルなどは、すべてホンデ地区のもの。

 同店が目指すのは、韓国で昔からある住人たちが集まり情報交換するたまり場「街のサランバン」だ。

 韓国の編集者たちが憧れる「ひとり出版社」、「UU Press」の代表チョ・ソンウン(趙成雄)氏は、テレビ番組制作会社から出版社に転職。年を重ねるごとに、管理職の仕事が増え、本作りの仕事に専念するために独立後、4年の間にひとりで46冊もの本を世に送り出してきたという。

 その他、自らも詩人で編集者でもあるユ・ヒギョン(愈熙敬)氏が経営する詩集専門の本屋、読者を発掘するために店内で「ブッククラブ」と名付けた読書会の運営を主体にする書店「BOOKTIQUE」(写真④)のCEOパク・ジョンウォン(朴鍾元)氏など、書店・出版の現場で新たな挑戦を続ける20人に話を聞く。

就職難と非正規雇用の増加 晩婚化と高齢化、政治の混迷と社会の停滞感」など、多くの社会問題で共通する日韓。そうした問題とは真逆にも見える本屋の興隆は、日本に先駆けて行われている社会実験のようだと著者のひとり綾女氏はいう。一度は滅んだ書店文化を再び取り戻した隣国に学ぶことは多い。(朝日出版社 2300円+税)

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