「嵯峨野花譜」葉室麟著
文政13年1月、京都の大覚寺で修行に励む少年僧・胤舜は年若くして活花の名手として評判が高く、大覚寺の花務職に任じられていた師の広甫から、「3日後に、法金剛院に参れ」と告げられた。大覚寺から1里余りのところにあるその古寺に、さる女人が参拝に訪れるから、その方のために花を生けよと言う。3日後に訪ねると、萩尾と名乗る女人は「昔を忘れる花を生けてほしい」との難題を投げかけるのだった。
そして胤舜がすべてをのみ込み、その難問に応えた活花は、白磁の壺にくっきりと伸びた松の枝と重なり抱き合うような2輪の白椿だった。(「忘れ花」)
ほかに、亡くなった弟のような花をと求められる「利休の椿」、闇の中で花を生けよという「闇の花」など、次々と出される難題に挑み続ける少年僧の成長物語10短編を収録する。(文藝春秋 1700円+税)