「感性」の変容でたどる戦後昭和史

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「感性文化論」 渡辺裕著/春秋社 2600円+税

「ここは広場ではありません、通路です。立ち止まらないでください――」久しぶりにこんなフレーズが蘇ってきた。そう、新宿西口地下広場でギター片手にフォークソングを歌って反戦を訴えていた「フォークゲリラ」を締め出すべく、機動隊員のスピーカーからこのフレーズが繰り返し流されていた。

 フォークゲリラの活動は、1969年2月から7月までのわずか5カ月と短命だったが、この西口フォークゲリラが醸し出した「音の空間」に、戦後の感性文化の大きな転換点を見いだしているのが本書だ。

 ここで扱われているのは、64年の東京オリンピックの実況中継、市川崑監督の公式記録映画「東京オリンピック」、新宿西口のフォークゲリラ、日本橋の空を覆うように走る首都高速道路の景観の4つ。

 大まかにいえば、近年転換期として注目されている「1968年」を起点として、先の2つはラジオ放送におけるアナウンスの仕方と記録映画の表現を通して戦前的な感性のあり方を分析したもの。

 後の2つでは、政治活動を支える心性の変化と新たな音楽文化の誕生、そして環境をめぐる感性の変容が考察されている。

 互いに関連がないかに思える4つの事象を縫い合わせて大きな図柄を描き、「感性」というなんとも捉えがたいものに一つの道筋を与えたのは、著者の力業だ。中でも、ソノシート付きの雑誌「朝日ソノラマ」を重要なメディアとして取り上げているのは聴覚文化、音楽社会史を専門とする著者ならでは。同誌の創刊初期(60年)には「架空野球中継」というラジオの実況中継を模した斬新な企画を打ち出し、学生運動が盛んな時期にはゲバラやホー・チ・ミンの演説や当時学生運動の理論的支柱だった羽仁五郎の討論の音源を載せ、さらにはデビュー直後の吉田拓郎の特集をしている。これだけでも一読の価値あり。
〈狸〉

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