ルターの「提題」以後を簡潔に説明
「プロテスタンティズム」深井智朗著 中央公論新社 800円+税
今から500年前の1517年10月31日、神聖ローマ帝国の修道士マルティン・ルターは、ローマ教会が発行する贖宥状(しょくゆうじょう=日本では免罪符として知られるが、正しくは、罪を免れるのではなく、科せられた罰を代行したことの証書)についての討論を呼びかける「95カ条の提題」を、ウィッテンベルク城の教会の扉に張り出した。
「提題」を扉に打ち付けるハンマーの音とともに宗教改革が始まった――なんとも劇的なシーンであるが、実際に「提題」が張り出されたかどうかは不確かだという。それでもルターの出現によって大きく歴史が動いたことは確かであり、グーテンベルクの印刷革命もあって、「提題」は瞬く間にドイツ全土に広まっていった。
しかし、ルター自身が考えていたのはあくまでカトリックのリフォームで、新しい宗派を立ち上げるつもりはなかったという。そう教えてくれるのが深井智朗の「プロテスタンティズム」だ。著者は、今日われわれが漠然と思っている「プロテスタンティズム」という思想がどのようにして生まれ、どういう経緯をたどって発展してきたのか、さらにはそれが現代社会に及ぼしている影響を描いている。
ルター以前から醸成されていた教会批判が、ルターの「提題」をきっかけに大きな潮流となり、既存の権威に反抗する「プロテスタント」諸派が各地で勃興する。そこから保守主義のプロテスタンティズムとリベラリズムの新プロテスタンティズムの2派に大きく分かれ、さらに新プロテスタンティズム内に保守主義的な動きが出てくる。甚だ複雑な動きなのだが、著者はそれを可能な限り筋道を立てて、簡潔に説明してくれる。
日本人はどうも宗教に関して鈍感なところがあるが、宗教の本質を知るためにも、また米国というプロテスタント国の深層を知るためにも、本書は格好の水先案内となるだろう。 <狸>