傷を負った人の声を拾ったオーラルヒストリー
「裸足で逃げる」上間陽子著 太田出版 1700円+税
ひとから話を聞き出すというのは、なかなかに難しい。ことに現代のように、SNSなどによる発信優先社会では、ひとの話に耳を傾けることはおろそかにされがちだ。また、世に出ている聞き書きやインタビューの本も、文献資料の代わりとしての口述資料として利用するか、自分の考えに沿うかたちで相手の言葉を切り取っていくというのがほとんどだ。
そうした聞き書きやインタビューと一線を画すのが本書だ。著者の上間は、非行少年少女の問題を研究する教育学者であり、沖縄の10代から20代のキャバクラや風俗店で働いている女性たちの話を聞きまとめた本書は、オーラルヒストリーの一種といっていい。
しかし、上間は研究対象として彼女たちに向き合うのではなく、身近な親類、先輩といった立場で彼女らの声に耳を傾ける。それは上間自身15歳まで少女たちと同じような場所で育ち、彼女らにかつての同級生の姿を見いだしていることがあるのだろう。
登場する6人の少女は、貧困によるネグレクト、パートナーからのDV、集団レイプなどを受け、着の身着のまま逃げ出さざるを得なかった。ほとんどが10代で子どもを産み、ひとりで子どもを育てるために夜の業界で仕事をしている。そんな彼女らは自らの体験を告げる相手も言葉も持たない。上間は彼女らに辛抱強く寄り添い、少しずつ言葉を引き出していく。その言葉は断片的だが、上間はそこに小ざかしい解釈を付すことなく、ナマのまま投げ出していく。彼女らと一緒に怒りながら、ともに泣きながら。
上間は自身の仕事を「重傷の人に絆創膏を貼っているようなものだ」といっているが、このような形で傷を負っている人の声を拾ってくれたことは貴重だ。これを読んだわれわれも、周囲に同じように声を出せずにいる多くの人がいることに想像力を働かせなければならないだろう。
〈狸〉