「学生を戦地へ送るには」佐藤優著
日米開戦前夜、京都学派の論客・田辺元は京都帝国大学で学生に向けて6回の講義を行った。そのときの講義集「歴史的現実」は、学徒動員された学生のバイブルとなり、感化された学生は講義集を胸に特攻機に乗った。「国のために命を捨てよ」という思想はどのように生まれ、どのように説かれたのか。今後同じ道を歩まないためにと、著者はこの講義集を読み直す合宿講座を開いた。本書は、そのときの合宿講座をまとめたものだ。
当時、ソクラテスやハイデッガーらの論理を織り交ぜた田辺の講義は若き学生を魅了した。話の大半は学術的理論を踏まえたものだったが、自身の逃げ道も用意した上で最後に説かれたのは、ナチスの論理も巧妙に組み入れた大義を掲げて自ら死ぬという死の思想だった。国家にだまされないためにも、予防接種としてこの巧妙なロジックを知っておくべきだと著者は言う。
田辺の思想を扱う必要があるほど今は危険な時代だという指摘に背筋が凍る。
(新潮社 1600円+税)