「戦国、夢のかなた」岡本さとる著
徳川軍の将・坂崎出羽守の軍陣で、ある青年が意識を取り戻すところから物語は始まる。体中に傷を負っている上に自分が誰であるかという記憶がない。
六車大蔵という仮の名をもらい、門様と呼ばれる赤木森右衛門という男に誘われて、言われるがまま浪福丸という瀬戸内海で交易する船に乗り込んだが、門様もその所作から水夫の姿をしていても武士であるように思われた。
そんな折、浪福丸が海賊船に襲われる。反射的に敵に立ち向かった大蔵は、体が覚えていた武術で船を守っている最中に、大坂城の本丸にいた自身の姿と本当の名を思い出すのだが……。
「必殺仕事人」や「水戸黄門」などのテレビ時代劇や舞台の脚本を手掛け、2010年に小説家デビューした著者による最新作。大坂の陣から島原の乱へと続く時代に、敗者となった落ち武士たちが、身分を隠して反旗を翻す日を待ち望む姿を描いている。戦国時代の有名人を、奇想天外な方法でからませる筋立てが楽しい。
(角川春樹事務所 1600円+税)