「黒沢清の全貌」文學界編集部編
黒沢が映画「LOFT」の中で、ヒロインの中谷美紀が悲鳴を上げてから悲鳴を起こさせる原因を後で見せていることを、蓮實重彦は指摘した。黒沢は、音がしてから悲鳴を上げる段取りで撮影を進めていたが、本当に音を立てるとマイクが拾ってしまうので、音がしたという設定で合図を出して悲鳴を上げてもらった、という。ところが、後で効果音を入れたら、スタッフ全員が「これ、違いますね」。「ガタッ」を入れると悲鳴のよさを殺してしまう。だから「キャッ」の後に音を入れた。それは中谷美紀の〈悲鳴の力〉だと蓮實は言う。
「不穏な」映画を作り続ける現場の臨場感が伝わってくる対談&エッセー&インタビュー。
(文藝春秋 1800円+税)