史実をもとにした傑作長編

公開日: 更新日:

「ピエタ」大島真寿美著 ポプラ文庫 680円+税

 イタリアの作曲家ビバルディといえば協奏曲「四季」というほど、その人気は絶大で、イ・ムジチ合奏団による「四季」のレコード売り上げは全世界で950万枚というクラシック音楽では驚異的な数字を記録。これほど有名なビバルディだが、200年ほどその名は忘れられていて、その生涯も近年ようやく明らかになってきた。  本書は、ビバルディが故郷のベネチアのピエタ慈善院付属の音楽院で孤児たちにバイオリンを教えていた史実をもとに描かれた小説だ。

【あらすじ】生まれてすぐピエタに捨てられたエミーリアは、ビバルディの指導する〈合奏・合唱の娘たち〉の一員としてビバルディから音楽の手ほどきを受け、45歳になる今日までこの慈善院で仕事を手伝っていた。その彼女に、恩師がウィーンで客死したという知らせが届く。

 かつてピエタへビバルディにバイオリンを習いにきていた貴族の娘、ヴェロニカにその話をすると、こんなことを言い出した。あるとき、ビバルディが技術の拙い彼女用に楽譜を書いてくれて、彼女はその裏に詩を書き付けたのだという。その楽譜を見つけてくれたらピエタに大口の寄付をしてもいいという。ビバルディが去って以来、財政が逼迫していたピエタにとって願ってもない申し出である。

 エミーリアは書簡を捜すべく、ビバルディの姉妹や彼と恋仲にあると噂された女性歌手などから話を聞き、ある高級娼婦の存在を知る。司祭の資格を持つ恩師が娼婦と関係していたとは、と衝撃を受けるエミーリアだが、その裏にはべネチアの貴族社会の確執があった――。

【読みどころ】孤児という宿命を負った女性と、ベネチアの貴族社会から疎まれた作曲家の魂が共鳴して、独特の旋律を奏でる傑作。

<石>

【連載】音楽をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    田中圭“まさかの二股"永野芽郁の裏切りにショック?…「第2の東出昌大」で払う不倫のツケ

  2. 2

    永野芽郁“二股肉食不倫”の代償は20億円…田中圭を転がすオヤジキラーぶりにスポンサーの反応は?

  3. 3

    永野芽郁「二股不倫」報道で…《江頭で泣いてたとか怖すぎ》の声噴出 以前紹介された趣味はハーレーなどワイルド系

  4. 4

    大阪万博「遠足」堺市の小・中学校8割が辞退の衝撃…無料招待でも安全への懸念広がる

  5. 5

    「クスリのアオキ」は売上高の5割がフード…新規出店に加え地場スーパーのM&Aで規模拡大

  1. 6

    のんが“改名騒動”以来11年ぶり民放ドラマ出演の背景…因縁の前事務所俳優とは共演NG懸念も

  2. 7

    「ダウンタウンDX」終了で消えゆく松本軍団…FUJIWARA藤本敏史は炎上中で"ガヤ芸人"の今後は

  3. 8

    189cmの阿部寛「キャスター」が好発進 日本も男女高身長俳優がドラマを席巻する時代に

  4. 9

    PL学園の選手はなぜ胸に手を当て、なんとつぶやいていたのか…強力打線と強靭メンタルの秘密

  5. 10

    悪質犯罪で逮捕!大商大・冨山監督の素性と大学球界の闇…中古車販売、犬のブリーダー、一口馬主