日常に潜む美を科学の目で撮影
「美しい科学の世界」伊地知国夫写真・文
今年のノーベル物理学賞を受賞した「重力波」の観測には一辺が4キロにも及ぶ巨大な装置が用いられるという。そんな大掛かりな装置を使わずとも、目を凝らせば、身の回りにあるたくさんの不思議が見えてくる。本書は、科学の目で日常生活の中に潜む不思議で美しい世界をとらえたカラー図鑑である。
例えば、一部を黄色く塗った、見るからにふわふわとした繭玉のような物体。実は、水を入れた風船を針で刺して割った瞬間の写真だという。黄色い部分は、風船のゴム膜が瞬時に縮まったところ。風船の形をした水の塊の表面が、ふわふわに見えるのは、ゴム膜が縮むときに水の表面をこすって生じた細かい水滴なのだとか。蛇口から落ちる水滴や、水道の流れをスプーンに当ててできる水の膜など、水の形の変化を捉えた写真は見ているだけで飽きない。
そのほかにも、立ち上る蚊取り線香の煙が周りの空気のわずかな揺らぎでつくり出す渦模様や工芸品のような美しさを持つIC(集積回路)、点描画のようなアゲハチョウの羽の鱗粉、光合成を利用してバラの葉にバイオリンをプリントしたリーフ写真、プリズムとレンズを使ってハロゲンランプの黄色みを帯びた光から抽出した光の芸術、そしてプラスチック製品やCDの中に潜む虹や女性のストッキングを拡大すると見えてくるメタリックな網など。顕微鏡で拡大したり、現象の瞬間を切り取った写真は、それぞれがアート作品のように美しく見惚れるとともに、それらがごく身近なモノたちの中に潜んでいることを知り、驚く。
まだまだ日常の中にはたくさんの不思議で美しいものが潜んでいそうだ。子どもと一緒に探してみるのも楽しいかも。
(東京堂出版 2200円+税)