作者不明のCDが巻き起こす殺人事件
「ひとごろしのうた」松浦千恵美著 ハヤカワ文庫/880円+税
ダミアが歌って世界的にヒットした「暗い日曜日」は、もとはハンガリーで生まれた曲で、その暗い内容により自殺者が相次いだとされ、歌が社会的に大きな影響を与えた例として知られている。本書も、その歌を聴くと殺人事件を引き起こすという作者不明の曲をめぐって展開される、音楽ミステリーである。
【あらすじ】大路樹はミリオンセラーを記録したロックバンドのボーカル&ギターだったが、バンドは解散、大手レコード会社の新米ディレクターとして再出発した。そこで回ってきたのが膨大な量のオーディション用音源デモを聴くこと。大半は箸にも棒にもかからない代物でうんざりしていたが、「ひとごろしのうた」というタイトルの歌を聴いた大路はハッとする。
歌詞の内容は暗いが、情感豊かに歌い上げるその若い女性の歌声は心に深く染みいってくる。すぐ応募者に連絡を取ろうと思ったが「瑠々」という名前だけで連絡先が書かれていない。大路はラジオ番組で作者の「指名手配」をするが、手がかりはゼロ。仕方なく、作者不明のままCDリリースに踏み切る。
曲はたちまち評判になり、これからという時、岐阜と静岡で起きた殺人事件の被疑者がどちらも事件前に瑠々の歌を聴いていたという記事が週刊誌に掲載され、CDは回収されてしまう。それでも大路は作者探しを諦めず、か細い手がかりを追って、ある驚くべき事実に行き当たる……。
【読みどころ】瑠々は、なぜ連絡先を一切書かずに応募してきたのか、また応募してきた目的は何か、そして殺人事件との関係は? いくつもの謎が絡み合いながら、ある家族の悲劇へと収斂していく。アガサ・クリスティー賞受賞という実力を存分に発揮した力作。 <石>