「騎虎の将 太田道灌」(上・下) 幡大介著
江戸城を造った男、太田道灌を描く長編である。物語の背景となるのは、関東管領山内上杉憲忠の暗殺から始まる享徳の乱だ。要するに関東を舞台にした武士たちの覇権争いである。
足利幕府は京にあり、将軍もそちらにいるので、関東の差配は武士に委ねられる。これが一枚岩なら問題ないのだが、複雑な歴史と思惑が入り乱れ、全然まとまらない。かくて始まる戦乱が、28年にも及ぶ享徳の乱である。戦国時代の端緒にもなったといわれている戦乱だ。その人間関係は複雑で入り組んでいるが、本書はそれを要領よく平易に描いていくので、どんどん物語に引き込まれていく。うまいなあ。
当時の風俗習慣なども克明に語られるので情報小説として面白いことも特筆ものだ。例えば関東の農地の大半は荘園で、その年貢を京に運ぶために武士階級が生まれたとか、戦時には荘園を守るために年貢の半分をもらうことができたとか、次々に出てくるので興趣が尽きない。
しかしそれよりもなによりも、物語の中心にいる太田道灌がいい。戦略の天才で、魅力あふれる男なのだ。さらに、戦場シーンも鮮やかだから目を離すことができない。太田道灌は上杉家の当主ではなく家宰にすぎなかったので自由な戦闘ができず、そこにこの男の悲劇があったのだが、そのためにこの長編に奥行きが生まれていることも見逃せない。快著だ。(徳間書店 各2000円+税)