男装の麗人博物学者ら10人の貝コレクション
「ニッポン貝人列伝」奥谷喬司監修
海岸で拾った美しい貝殻を、その日の記念にと持ち帰ったことが、誰にでもあるのではなかろうか。貝殻収集は、幼児から王侯貴族まで、老若男女を問わず魅了するようだ。昭和天皇も熱心な収集家だったことが広く知られており、表敬の際に各国の要人から贈られた美しいコレクションが多数残っているそうだ。
本書は、貝に魅せられ、収集・研究に名を残した先人たちの業績とコレクションの一端を紹介するビジュアルブック。
平瀬與一郎(1859~1925年)は、日本の貝類学の端緒を開いた民間の研究者。私財を投じ、国内外に採集者を派遣して、集めた貝の標本を分類・整理。残した標本コレクションは8000種以上に及び、1907(明治40)年には、日本初の貝類研究専門誌を発刊、1913(大正2)年には「平瀬貝類博物館」を開館している。標本商も営み、海外の研究者や博物館とも交流。海外の研究者と連名で学名をつけた新種も多い。
その平瀬が助手として雇った15歳の少年が、後に日本の貝類学研究を開花させた黒田徳米(1886~1987年)だ。働き始めてわずか3年ほどで貝の知識で平瀬を追い抜いた黒田は、100歳を越えるまで研究を続け100の新属、650の新種を発表。1928(昭和3)年の日本貝類学会設立にも尽力した。
その他、男装してフィリピンから膨大な数の鳥や貝を採取して標本を持ち帰った麗人博物学者・山村八重子(1899~1996年)や、当時の日本産貝類の5分の1近くに及ぶ1300以上の新種・新属を発見した波部忠重(1916~2001年)ら10人を網羅。
紹介される貴重な貝殻標本の美しさとその造形の面白さに、彼らが貝に魅せられた気持ちがよく分かる。(LIXIL出版 1800円+税)