人類と病との闘いの歴史 新石器時代に開頭手術!?
「医学の歴史 大図鑑」スティーヴ・パーカー著 酒井シヅ日本語版監修
人間にとって健康は、何よりの宝で、人類の歴史とはある意味、病との闘いの歴史ともいえる。本書はその長大な人類の医学の発展の歴史を網羅したオールカラー図鑑。
驚くことなかれ、人類が薬を使い始めたのは、なんと約5万年も前のことだという。我々に最も近い人類種で絶滅したネアンデルタール人の化石の歯垢を調べた結果、止血作用などがあるセイヨウノコギリソウや抗炎症作用があるカモミールなどの微化石が検出されたそうだ。彼らが苦味成分を感知する遺伝子を持っていたことは分かっているので、これらの植物が治療目的で摂取されたことは明らかだという。
新石器時代の頭蓋骨には、穿頭術が行われていた痕跡も見つかっている。その後の古代エジプトやギリシャ、ローマ、中国の外科医は穿頭術に精通し、論文も書いていた。
エジプトのミイラを調べると、当時の人々も寄生虫や虫歯、結核、マラリアなどさまざまな病気に苦しめられていたことが分かる。
医学は、古代ローマで大きく進歩し、帝国全域で発見されているカテーテルや骨折治療用の鉗子など当時の外科手術器具からは、その発展ぶりがうかがえる。帝国後期には行政の手で医療制度が整備され、医療専門病院が設立されたという。
以降、順次、先人たちがどのように体や病気の仕組みを解明し病を克服してきたのかをトピックごとに豊富な図版を用いて紹介。現代の最先端のロボット医療や、分子レベルの診断や治療を実現したナノ医療、そして夢の幹細胞医療など最先端の医療まで約5万年の人類の歩みを概観する。
病気との闘いに終わりはないが、こうした先人たちの努力と成果の上に現代の健康的な暮らしがあることを痛感し、感謝の気持ちが湧いてくる。(河出書房新社 7800円+税)