「奇岩の世界」山田英春編
地球のダイナミックなエネルギーの産物であるからか、それとも長い歳月をひとところにとどまり、風雨に耐えてきたからか――人は太古の昔から岩に不思議なパワーを感じてきた。そのパワーに引きつけられ、岩を眺めているうちに、人々はイマジネーションをかき立てられ、その岩にさまざまな物語を見いだしてきた。奇岩の誕生だ。
本書は、そんな世界各地の奇岩を紹介する写真集。表紙に写る「翼の王」と呼ばれる岩は、その名の通りグライダーやカモメの翼のような形状で、しなやかに、そして力強く、空中を切り裂いており、自然石とはとても信じられない造形をしている。
この岩はアメリカ・ニューメキシコ州チャコ渓谷のアーシスレパー・ウィルダネスと呼ばれる見渡す限りの不毛の大地に鎮座している。ここでは他にもキノコ状の石柱(写真①)が並び、奇観をつくり出している。「翼石」も「キノコ石」も白亜紀後期の堆積層の中の比較的硬い部分を残して周囲と下部の軟らかい部分が浸食と風化によって削られて出来たものだそうだ。
ボリビアのシロリ砂漠にそそり立つのは縄文時代の火焔型土器を彷彿させる「石の木」と呼ばれる岩。さらにニュージーランド南島のコエコヘ海岸にごろごろと転がる巨大生物の卵にも見える「モエラキの石球」。これは太古の海中で生物の遺骸を核にして出来た石の球が少しずつ大きくなるコンクリーションという自然現象によって出来る。そして、アメリカ・ユタ州のサンラファエル砂漠で無数のゴブリン(小鬼)のような岩が林立することから「ゴブリンの谷」と呼ばれる谷の入り口に立つ彫像のような「スリーシスターズ」など。まずは、人の手が加わった芸術作品のような奇岩が並ぶ。
重い岩が、時に重力を無視するかのように岩同士で絶妙なアクロバットを演じることがある。「驚異のバランス」という章では、そんな岩のサーカスが繰り広げられる。
そのひとつ、カナダの東端ノバスコシアのバランス石は、わずかな接点で岩盤とつながった長さ約9メートルの玄武岩がまるで空中に浮かんでいるかのように見える。奇岩で有名なイギリスのノースヨークシャー、ブリムハム・ムアにある「偶像の岩」(写真②)は、重さ200トンともいわれる巨岩が、小さな円錐形の岩に支えられ、まるで空中浮遊をしているかのよう。ちょっと指で押しただけでいまにも転がり落ちそうだ。
他にもSF映画の世界のような景観をつくり出す岩々を集めた「異星の谷、失われた世界」や、住居や墓に加工された奇岩・巨岩を紹介する「岩に住む、岩に眠る」の4章で88カ所の奇岩を紹介する。
長い地球の歴史から見たら、これらの奇岩がこうした姿を見せているのも一瞬のことで、やがて砕けて細かい砂となり、そして海の底に堆積して再び大きな岩となるはずだ。その雄大な時間の流れの中でつかの間見せる自然による奇跡の芸術、それが奇岩だ。
(創元社 2000円+税)