「世界の断崖おどろきの絶景建築」パイ インターナショナル編
天上におわす神に少しでも近づくため、または攻めてくる敵に備えるためなど、古来、世界各地で断崖の上にさまざまな建物が建てられてきた。中には、どうやって資材を運び、どのように建てたのか頭をひねってしまうような建物もある。そんな人間の英知と労力を尽くして建てられた断崖建築を集めた写真集。
表紙の建物は、ジョージアの「カツヒの柱」と呼ばれる高さ約40メートルの石灰岩の一枚岩の上のわずかな空間に立つ小さな修道院。古くから地域住民に崇敬されてきた柱の頂上の遺跡は9~10世紀のもので、1995年から宗教建築としての機能が復活して今も1人の修道士がここで生活をしているという。
同じようにギリシャ北西部の奇岩群の上に建てられた修道院共同体「メテオラ」や、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路の町、フランスのル・ピュイ・アン・ヴレーにある火山岩の天辺に10世紀半ばに創建された「サン・ミッシェル・デギル礼拝堂」など。たどり着くだけで大変な労苦を強いられる天空のスペースに、あえて困難に向かうように建てられた古の建築物に先人たちの信仰心の篤さを思う。
天空のスペースに居場所を求めたのは、宗教関係者だけではない。彼らが天上の神を仰ぎ見ていたのとは反対に、城砦や王宮を築いた権力者たちは、支配した土地を見下ろすため、そして襲い来る敵から逃れるために天空を目指す。
スリランカの「シギリヤ」は、平原にそびえる200メートルの高さの岩山の上にある王宮跡。5世紀、父親を殺害して王権を奪ったカッサパ1世が腹違いの弟による反乱を恐れて、都をこの地に移して築き上げたものだという。しかし、わずか11年でその弟によって滅ぼされ、以降14世紀までは仏教寺院として使われていたそうだ。
もちろん現代人だって、高いところは大好きだ。アルプスの最高峰モンブラン頂上近くに築かれた山小屋「グーテ小屋」は、銀色に輝く外装とその形状でまるで地球に立ち寄ったUFOにも見える(実は木造だそうだが)。
同じくアルプスには、自分の足を使わずとも、ロープウエーを乗り継いで行ける海抜3777メートルのエギーユ・デュ・ミディ北峰頂上部の駅施設などもある。
その他、巨岩そのものを掘って築いたトルコ・カッパドキアの「オルタヒサール城」や、ゴダール監督の映画「軽蔑」(1963年)によって世界中に知られたイタリア・カプリ島にある作家クルツィオ・マラパルテ氏の邸宅、長年、崩壊の危機にさらされていたため数百年前の建物がほとんど手つかずで残るイタリアの城塞都市「チヴィタ・ディ・バーニョレージョ」、そして断崖の中腹に張り付いているかのように見える鳥取県の「三佛寺投入堂」まで、58物件を紹介する。
絶壁とそれぞれの建物がつくり出す風景そのものが絶景なのだが、きっと建物から見える風景も絶景に違いない。しかし、高所恐怖症の方は閲覧注意。
(パイ インターナショナル 1800円+税)