「絶景本棚」本の雑誌編集部編
極め付きの本好きたちの書斎・書庫探訪記。
トップを飾るのは社会経済学者・松原隆一郎氏の書庫(写真①)。28・7平方メートルの狭小地に建てられた地下1階・地上2階建ての書庫は、らせん状に1万冊の蔵書が円筒形の内側の壁面全てを覆い尽くし、地下から見上げると蔵書の無限の増殖を暗示しているかのようだ。
続く作家の京極夏彦氏は、3カ所の書庫に5万冊を蔵書。その書斎兼書庫は、天井までの作り付けの本棚に全集などが整然と並べられ、本棚が壁紙化してインテリアとして機能している。
しかし、多くの人に身に覚えがあるように、誰もがこうして美しく本を収納できるわけではない。なぜなら読んで収納整理するスピードよりも、本が増えるスピードの方が速いからだ。
ミステリー・SF研究家の日下三蔵氏は、横須賀市の自宅の4部屋と家から車で5分ほどのマンションの3LDKすべてを書庫として利用。自宅ではさらに3つの物置も本と雑誌の収納に使用しており、蔵書数は合わせて7万~8万点ほど。本棚に収まり切れない本やCD、DVDが床中に積み上げられ、自宅のほとんどすべてを本に捧げて、生活スペースはわずか1畳ほどしかないという。
さらにその上を行くミステリー評論家で“古本神”とも呼ばれる森英俊氏の蔵書はなんと10万冊以上(写真②)。その中には稀覯本も数多く、戦後SF最大の怪作といわれる「醗酵人間」の著者・栗田信の作品が並んだ棚1段分だけで購入金額はなんと120万円以上だとか。
他にも地図だけで1万2000枚以上を所有する地図研究家・今尾恵介氏をはじめ、「言海」(日本初の国語辞典)だけで版違いなど260冊以上もあるというフリー校正者の境田稔信氏、5000冊以上のタレント本と芸能グッズがあふれるインタビュアー・書評家の吉田豪氏らの専門古書店のような趣の書庫(写真③)など、職業も専門も異なる34人の本棚を眺めさせてもらう。
混沌派、整然派、そして混沌の中に秩序がある派など本の並べ方、収納法も人それぞれだが、ファンタジー研究家の中野善夫氏のリビングに向かい合っている白い本棚は、一見するとワードローブのようで外見からは本が収まっているとは分からない。他の本棚も遮光カーテンやガラス扉にUVカットのファイルが貼られ、本を日焼けから厳重に守っているのだ。
本棚を見られるのは閨房をのぞかれるよりも恥ずかしいと誰かが言っていたが、それは本棚にその人の頭の中が表れるからだろう。登場する人物たちの本棚は、その量・質ともに常人の域を越えた異界の様相で、各本棚を「読む」楽しみもある。
既読の本を見つければ親しみを感じ、「ゴキブリ大全」(嶋浩一郎氏の蔵書)や「世界毒舌大辞典」(成毛眞氏の蔵書)などの書名に内容を想像してニヤリ。本好きには二重三重に楽しめるおすすめ本。(本の雑誌社 2300円+税)