「行ってみたい世界の灯台」小島優貴・武井誠編集・デザイン
GPSがない時代、星や磁石だけを頼りに航海した先人たちにとって、海と陸をつなぐ灯台は、安全な航海の道しるべとして、なくてはならない存在だった。
記録に残っている最古の灯台は、紀元前3世紀ころにエジプトのファロス島に建設された高さ約134メートルの「アレクサンドリアの大灯台」だといわれている。一方、日本最初の灯台は、今から約1200年前、日本に戻ってくる遣唐使船のために九州地方の沿岸にかがり火をたいたのが始まりだそうだ。
本書は、その立地ゆえに、存在はあまり知られてはいないが、日々、海の安全を守るべく海を照らし続ける世界の灯台を紹介する写真集。
アフリカ大陸最南西端、ケープ半島の突端にある喜望峰は、かつて「嵐の岬」と呼ばれ恐れられる航海の難所だった。ここに1860年、最初の灯台「ケープポイント灯台」が建設されたが、海抜249メートルという高所に建設されたため、雲や霧に隠れてしまうことが度々あり、ポルトガル船の座礁事故をきっかけに1916年、新たな灯台が完成。旧灯台も健在で、眺めの良い絶景ポイントとして観光地にもなっているという。
スコットランドのインナー・ヘブリディーズ諸島の最北の島スカイ島に立つ同国で最も有名な灯台「ニースト岬灯台」(初点灯1909年)は、我々が灯台に抱くイメージそのまま、断崖の岬の先端に立ち、まさに絵に描いたような灯台だ。
かと思えば、海面に浮かぶように立つ灯台もある。黒海と地中海を結ぶボスポラス海峡に立つトルコの「クスクレシイ灯台」(写真①)だ。
その歴史は古く、海峡の岩礁に灯台のようなものが建てられたのは1110年で、当時は大砲を備えた要塞の機能を有していたという。この要塞は、コンスタンティノープル陥落後も壊されずに使われてきたが、1721年に火災で全焼。1763年に再建されたのが現在の灯台だという。
白い円筒形の建物ばかりが灯台ではない。まるでレトロな宇宙船が長い旅を終えて地球に着陸したような形の、イングランド「ブラックノア灯台」(写真②=同1894年)や、赤い花崗岩を積み上げて造られ、周囲の景観と調和したフランスの四角柱の「プルマナック灯台」(写真③=同1948年)、中にはアメリカの「チャールストン灯台」(同1962年)のように空港の管制塔と見間違えてしまうような三角柱の灯台まである。
日本からも14灯台が登場。そのひとつ北方領土・歯舞群島のひとつにある「貝殻島灯台」(同1937年)は、その場所ゆえに日本の灯台ながら保守・管理ができず、基礎部分の劣化のため全体が傾いてしまっている。
他にも運が良ければオーロラと灯台の明かりのコラボレーションが見えるというアイスランドの「グロッタ灯台」(同1947年)など、えりすぐりの65基が登場。
多くの灯台は、気安く訪ねられる場所にはないが、行けば必ず感動が待っているはずだ。
(自由国民社 2000円+税)