「EPITAPH東京」恩田陸著
筆者Kは、東京をテーマにした長編戯曲に取り組んでいるが、なかなか進まない。「エピタフ東京」というタイトルだけは数年前から頭に浮かんでいた。
行きつけの飲み屋で知り合った自称・吸血鬼の吉屋は、「この街は、無数の死者の記憶でできている」という。東京にふさわしいエピタフ=墓碑銘を考えるKには、「死者がポイント」という吉屋の言葉が啓示のように感じられる。
将門の首塚や友人の父親の納骨で出かけた霊園、昭和天皇陵などを訪ね歩き、執筆のアイデアを練り上げていくKは、ある日、神田の古書街で吉屋を見かけ、思わず尾行する。
Kの日常と作中作「エピタフ東京」、そして吉屋の視点が交錯しながら進行する不思議な読書体験。 (朝日新聞出版 640円+税)