「無貌の神」恒川光太郎著
〈私〉は自分がいつその集落に来たのか分からなかったが、燃えている町から逃げてくる悪夢をよく見た。集落には古寺があり、のっぺらぼうの神がいた。私は何度かその神に傷を癒やしてもらった。あるとき、その神が傷だらけの男をうわばみのように丸のみにするのを見た。私を育ててくれたアンナは私を森の中の赤い橋に連れていき、その橋を渡って行けと言ったが私は拒んだ。秋の日、アンナは刀でのっぺらぼうの神を殺した。神の屍はとてもうまそうに見え、アンナが「あなたは駄目。戻れなくなる」と止めたが私はそれを食べた。(「無貌の神」)
青天狗や死神などが跋扈する、幻想的な世界を描く6編の短編。(KADOKAWA 1600円+税)