「完パケ!」額賀澪著
うまいな、額賀澪。大学の卒業制作の映画を撮ることができるのは、たった1人。監督志望の安原と北川は、シナリオコンペで対決する。どちらが勝つかはすぐに明らかになるが、一応読んでのお楽しみにしておく。勝った方(つまり監督になる方だ)は、負けたやつに「プロデューサー、やってくれないかな」と頭を下げて撮影が始まっていく。
監督志望で、コンペで負けて、そしてプロデューサーになるのだ。当然、彼には鬱屈した思いがある。嫉妬がある。そういう心理的な葛藤がある。監督になる友人との間もぎこちないだろう。その微妙な心理を描いていき、しかし一緒に映画を撮ることで2人の友情はふたたび復活していく――こういう話になるのかな、と思っていた。
もしそうであるなら、少しばかり退屈だ。ちらりとそう考えてしまったことを反省する。額賀澪がそんな話を書くわけがないのだ。生意気な役者との対決などをはじめとして映画制作のさまざまなドラマを克明に描いてたっぷりと読ませるけれど、真にすごいのはラスト。映画は一応の完成を見せるけれど、それでもこの長編は終わらないのだ。ラスト20ページが圧巻。ここで一気に感動がこみ上げる。
こういう突然の盛り上げ方が、額賀澪は天才的にうまい。そこまでの制作のディテールも読ませるのだが、ラスト20ページでギアをもう一段階上げると言えばいいか。青春小説の傑作だ。 (講談社 1400円+税)