あったか朝ごはんが背中を押して…

公開日: 更新日:

「奈良まちはじまり朝ごはん」いぬじゅん著/スターツ出版620円+税

 世界遺産である元興寺の旧境内を中心とする「ならまち」は、平城京以来の長い歴史を有し、江戸から明治にかけての町家の面影をいまに伝える町並みが広がり、タイムスリップしたかのような錯覚に陥ることも。本書の主人公も、そうしたならまちの一角に迷い込み、不思議な出会いをする。

【あらすじ】新社会人として初出社の4月1日、希望にあふれて奈良市にある会社に向かった南山詩織を待ち受けていたのは「倒産」と書かれた貼り紙だった。社会人になった日に無職になるという運命を受け入れられぬまま、詩織は奈良の町をさまよい、気がつくと目の前に古い町並みを残した風景が広がっていた。力尽きるように道端のベンチに腰を下ろしていると若い和服姿の男に、「朝ごはんは食べたのか?」と声をかけられた。まだだと答えると、半ば強引に店の中に引き込まれ、オムレツのようなものを出された。それは「西洋卵焼き」といって、卵焼きの中に餅とだしで味付けされた細切りの玉ねぎやシイタケが入っていて、なんとも懐かしい味で食べているうちに心の痛みが取れていく。

 これがならまちのはずれにある朝食専門の店の主人・柏木雄也との出会いだ。これを縁に、詩織はこの風変わりな店で働くことになった。

【読みどころ】たとえ悲しい出来事があったとしても、温かい朝ごはんを食べて新しい一日を過ごしてほしいと、決まったメニューは設けず、それぞれの人に合わせた朝食を供する雄也。そんな彼を慕ってさまざまな客がやってくる。家が嫌なのか、一人で食べに来る中2の女子、肉と野菜が苦手という偏食の独身男……。ほっこりと温かい朝ごはんがそれぞれの背中を押していく。 <石>

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭