無気力な中年男が人生最後の食事を頼まれ…

公開日: 更新日:

「僕とおじさんの朝ごはん」桂望実著 中央公論新社/700円+税

 食事のとき、これはうまいとかまずいとか何げなく言ってしまうが、本書に登場する13歳の英樹は生まれつき難病にかかっており、彼にとっての食事とは「体のために栄養を取り入れる行為」である。だから、「うまいかまずいかではなく、取ったか取らなかったが重要で、それは飲み薬と同じ扱い」なのだ。その英樹が、食事をして生まれて初めて「最高にうまい」と思った。そんな奇跡を描いた物語である。

【あらすじ】水島健一は44歳のケータリング業者。彼のモットーは、まず味よりも見た目に気を配ること。その次に大事にしているのは、下準備にどれだけ手を抜けるかだ。大体は出来合いのものをきれいに飾り付けてそれらしく見せ、たまに手作りしたとしても、前のパーティーで多めに用意したものを次に使い回すといった具合だ。何事によらず、真剣とか一生懸命といったことは避けて、無気力、無関心を貫くのが健一の信条だ。

 とはいえ、健一とてはなからそうだったわけではない。若い頃のある出来事をきっかけに彼の心に虚無が入り込んでしまったのだ。

 そこに現れたのが英樹だ。腰痛のためリハビリセンターに通っていた健一が手にしていたあん入りのサンドイッチに車いすに乗った英樹が興味を示し、食の細い彼がおいしく食べたのがきっかけだ。以来、2人は親しく話すようになるが、ある日健一は、英樹から人生最後の食事としてとっておきの朝食を作って欲しいと頼まれる。それに対して健一が用意したのは……。

【読みどころ】自らの命をまっすぐに見つめる英樹に向き合って、健一はおいしいものを食べることの幸せな気分を思い出す。少年とおじさんの心の触れあいがちょっと切なく、心洗われる。 <石>

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭