「手ぶらで生きる。」しぶ氏
家賃2万円の4畳半に住み、生活費は月7万円。冷蔵庫もテレビもベッドもない。財布は持たず、1日1食で生きる。仙人か、はたまた世捨て人か。その実態は、23歳のミニマリストである。
「ミニマリストといっても、モノを減らしてスッキリ暮らすというよりは、必要最低限で賢くやりくりしたいという考えのほうが強いです。2015年に主婦や年配層で『断捨離』がはやりましたが、僕ら若い世代にはそれは合理的で必然的な暮らしなんですよ」
モノを減らしたその先には、必ずメリットがある。ただ単にスッキリするだけではないのだ。
「基本は、『頑張らなくても維持できる』ということ。月7万の生活費で4畳半というのが、僕にとっては頑張らなくても維持できる“サイズ感”なんです」
シンプルにもほどがあるとツッコミたくなるほど、著者の部屋には何もない。ベッドも敷布団もない。床に寝るという。洗濯乾燥機以外の持ち物すべてがキャリーケースひとつに収まる身軽さだ。
「結局モノの多さと家事の多さは比例するんです。モノが減れば、無駄な家事も減らせるし、時間も場所もとられません」
著者のファッションは超シンプルだ。白シャツに黒パンツという同じパターンの服が複数あれば、毎日あれこれ選ばなくて済む。冠婚葬祭にはファッションレンタルサービスで十分。服も車も自転車もオフィスも今は「所有」から「レンタル、シェア」の時代だと話す。モノだけではない。不要な習慣や風習など、日本人が無駄に行いがちなことを断ち切る提案も。千羽鶴や年賀状、形の残るプレゼントは、受け取る相手が処理に困り、ありがた迷惑だという。
「僕はなんとなくというのが一番イヤ。誰かが決めたいいモノを消費するのではなく、自分がいいと思うモノを消費しようと思います。好き嫌いを明確にして、好きを選んでそれ以外を排除することで、時間やお金を費やせる。ミニマリズムの本質はそこにあると思っています」
ミニマリストは職業ではないが、活動をブログや本に書くことで、結果的には仕事になっている。モノを捨てたい人の家へ出向く出張ミニマリストも行う。
「必要最小限ということは、実は自分の基準を持つことなんです。本に書いた50の方法はあくまで僕の基準であり、サイズ感。自分の基準とぜひ向き合ってほしいです」
著者は福岡在住だが、取材当日は東京へ。10日間で1万円のシェアハウスに滞在中だという。一時期は家を持たず、キャリーケースひとつで全国のシェアハウスやゲストハウスを転々としたこともあるそうだ。
「二拠点生活とか多拠点生活がはやっています。地方と都会に住まいを持つのがトレンド。でも僕はひとりが好きで、自分の空間が欲しかったので4畳半の拠点を構えました。維持費に負担はかからないから、その分生まれた余白であちこち行けます。それこそ夏は札幌に避暑しようと思っています」
(サンクチュアリ出版 1200円+税)
▽しぶ(澁谷直人 しぶや・なおと) 1995年生まれ。福岡県北九州市出身。父の自己破産が原因で両親が離婚したことを機に、ミニマリズムに目覚める。「ミニマリストしぶのブログ」が月間100万PV超えの人気を博す。ブログ収入をベースに、ミニマリストとしての活動を展開中。