「呪われた土地の物語」オリヴィエ・ル・カレ、シビル・ル・カレ著 鳥取絹子訳
世界各地の絶景や秘境、名所・名跡などを紹介する本は巷にあふれているが、本書はその対極、地名を口にするのもはばかられるような呪われた土地について紹介するビジュアルブック。
例えば、モナコにほど近く、フランスとイタリアとの国境の標高1000メートル超えの高地にかつてあった村「ロカスパルヴィエラ(鷹の岩)」。息をのむような眺望が広がるその天空の村には12世紀から人が住み始め、最盛期には350人以上の住人がいたという。
しかし、18世紀に無人となり、廃虚化した。バッタの大群による耕地の襲撃やペストの流行、住民同士の内輪もめ、そして追い打ちをかけるように地震が度重なり、村全体が崩壊したのが原因だったようだ。
実は、理由はそれだけではない。言い伝えによると、1357年のクリスマスの夜、この地の城に居住していたナポリ王国のジョバンナ女王が近隣の村のミサに参列して城に帰ると、2人の子供が無残に殺され、遺体が夜食のように食卓に並べられていた。苦しみと怒りにさいなまれながらこの地を去った女王は「この血まみれの岩の上で、雄鶏も雌鶏も、もう二度と時を告げることはあるまい」と言い残した。村は女王の言葉通りになったのだ。
中央アジアの古都サマルカンドの「グーリ・アミール廟」は、かつてこの地を治めた首長ティムールが、戦死した孫のために1403年に建てさせた霊廟。遠くトルコやペルシャ、インドまで侵攻したティムールは、世界人口が3億人ほどだった当時、1700万人も虐殺したといわれる。
ティムール自身も安置された廟の壁には「わたしが再び陽の光のもとに戻ってきた暁に、世界は震えおののくだろう」との不吉な文言が刻まれている。
1941年、ロシア人法医学者がチンギスハンの子孫かどうかを確認するためにティムールの遺体を掘りだしたのは、ドイツ軍がソ連軍を襲撃したその日だったという。
他にも映画「悪魔の棲む家」のモデルとなったニューヨーク・オーシャン通り112番地にある「アミティビル」など、宗教や伝説がからむ呪われた地に加え、リン酸塩採掘で一時はGDP世界2位の裕福な国になったが、国を挙げての放蕩の末に現在は最貧国に転落し、鉱山開発で国土も荒廃したオセアニアの島国「ナウル」や、サイクロンが生まれる大西洋側のアフリカ沿岸の「ガンビアの深海平原」、そして日本の自殺の名所「青木ケ原」まで、人間の仕業や自然の猛威によって呪われた世界の40の土地を巡る。
その土地の正確な経度と緯度は表記されているが、添えられているのは大まかな場所を示す地図だけ。地図を頼りに物語を読み進めれば、それぞれの呪われた土地のイメージが膨らみ、写真で現在の姿を見せられるよりも余計に背筋が寒くなる。
ちょっと変わった紙上世界旅行が楽しめる地図本。
(河出書房新社 2900円+税)