「ニッポンの本屋」本の雑誌編集部編
「本棚を見れば、その人が分かる」とはよく言われるが(どこかの国の格言らしい)、どの店も同じように見える「書店の本棚を見れば、その店がよく分かる」と言えるのではないだろうか。
そんな新たな格言を思いつきそうな、魅力ある本棚で住人に愛され続けてきた町の本屋さんを紹介するマニアックなビジュアルガイドブック。
西武池袋線中村橋駅近くの「中村橋書店」は、外観からして昔ながらの町の本屋さん。取材時には入り口正面の棚ではライフスタイル系の本のフェアが開催されていたが、その最上段には「近代日本政治思想史」など、高額な人文書や芸術書の新刊が並ぶ。文芸書やコミックも充実しているが、ビジネス書の品揃えは必要最小限。なぜなら「ビジネス書を買うお客さんは都心でも買える。町の本屋は、町の本屋を利用してくれる人のために品揃えをすればいい」との社長の考え方に基づいてのことだ。この地で三十数年も続く老舗の秘密を垣間見るようだ。
JR鎌倉駅近くの「たらば書房」の外観はまったくの駅前書店の趣。しかし、入り口から奥に入るにしたがって海外文学や人文、社会科学系へと、どんどん専門書店化していく。さらに、その日に入荷した本はレジの前で「今日入った本」というラックにノンジャンルに入れられ、翌日、どの棚に並べるかスタッフの話し合いの末に、正式な場所が決まるそうだ。
JR船橋駅近くの「ときわ書房本店」は文庫の棚に力を注ぐ。同店の売り上げランキングに並ぶのは、ミステリーと時代モノがほとんど。というのも平日夜型の店で男性客が圧倒的に多いため、「お客さんに合わせていったら、偏った品揃えになった」とのこと。
ネット書店の登場や、深刻な読書離れなど、書店をとりまく環境は厳しさを増すばかりで、全国から加速度的に町の本屋さんが姿を消す中、こうした本屋さんたちは、常連客に飽きられないよう、こうして限られたスペースでの品揃えにそれぞれ工夫を凝らす。
2008年に「本屋プロレス」で話題になった都営地下鉄大江戸線中井駅近くの「伊野尾書店」は、そうしたユニークなイベントに加え、毎年秋にはさまざまな職業の地元関係者が選ぶ「中井文庫」というフェアも開催し、町と一体化して、地域の活性化にも貢献している。
さらに、全共闘運動に関わった学生たちが自分たちの作った出版物を流通させるために開店し、市民運動のパンフレットをはじめ新左翼から右翼までの機関紙など「ミニコミ・少流通出版物取扱書店」を標榜する新宿の「模索舎」など、34店の本屋の本棚を紹介する。
2015年1月から昨年夏まで雑誌に掲載された人気コーナーの単行本化なのだが、実は掲載された店でも数店が閉店に追い込まれている。失ってからその存在のかけがえのなさに気づいても遅いのだ。久しぶりに近くの本屋さんの本棚の前に立ってみよう。必ず何か発見や出合いがあることだろう。
(本の雑誌社 2300円+税)