「誰かが足りない」宮下奈都著

公開日: 更新日:

 誰にも、とっておきのレストランというのがあるのではないか。大事な人と貴重な時間を過ごすのにうってつけの店。本書の舞台は、ある町のとてもおいしいと評判のレストラン「ハライ」。それぞれ事情は異なるものの、それぞれがその店を「とっておき」と思っている6組の客が予約をするまでの6つの物語。

【あらすじ】最初の予約は、内定先の会社が倒産しコンビニで深夜勤務をしている「僕」。学生時代から付き合っていた未華子が別の男と結婚すると聞かされた僕は、かつて未華子がおいしいと言っていたハライのスープを食べに行くことを決める。

 2番目は、認知症で息子や孫の名前も忘れてしまった「私」。彼女が洋食ばかり作るのは、亡き夫がハライのコンソメスープを褒めるので、それに対抗したかったからだ。3番目は、残業代の支給でもめる中、係長に抜擢され、恋人から「尻拭い要員」と揶揄されながらも孤軍奮闘する久美。そんな久美の悩みを、幼馴染みのヨッちゃんにハライでぶつけたい。

 4番目は母親が急死したため、家に引きこもりビデオカメラを通してしか会話ができない青年。妹の友人のおかげでなんとか外に出られそうになる。最初に行くのは評判のレストラン。5番目はホテルのレストランの厨房で働いている「俺」。俺の夢はいつかハライでコックとして働くこと。だから気になるあの娘を食事に誘いたい。最後は、失敗のにおいを嗅ぎ取るという特殊な能力を持つ留香。ひょんなことから昔別れたきりのいとこに出会い……。

【読みどころ】この6組いずれも予約は10月31日午後6時。当日のことは書かれていないが、6つのテーブルから一斉に立ち上る特別な時間が目に浮かんでくる。 <石>

(双葉社 528円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元グラドルだけじゃない!国民民主党・玉木雄一郎代表の政治生命を握る「もう一人の女」

  2. 2

    深田恭子「浮気破局」の深層…自らマリー・アントワネット生まれ変わり説も唱える“お姫様”気質

  3. 3

    火野正平さんが別れても不倫相手に恨まれなかったワケ 口説かれた女優が筆者に語った“納得の言動”

  4. 4

    粗製乱造のドラマ界は要リストラ!「坂の上の雲」「カムカムエヴリバディ」再放送を見て痛感

  5. 5

    東原亜希は「離婚しません」と堂々発言…佐々木希、仲間由紀恵ら“サレ妻”が不倫夫を捨てなかったワケ

  1. 6

    綾瀬はるか"深田恭子の悲劇"の二の舞か? 高畑充希&岡田将生の電撃婚で"ジェシーとの恋"は…

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    “令和の米騒動”は収束も…専門家が断言「コメを安く買える時代」が終わったワケ

  4. 9

    長澤まさみ&綾瀬はるか"共演NG説"を根底から覆す三谷幸喜監督の証言 2人をつないだ「ハンバーガー」

  5. 10

    東原亜希は"再構築"アピールも…井上康生の冴えぬ顔に心配される「夫婦関係」