「真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男」田崎健太著/集英社インターナショナル2400円+税
1980年代前半、新日本プロレスは金曜日の20時という絶好の時刻にテレビで放送されていた。それだけ視聴率が取れるコンテンツだったわけだが、その中でも圧倒的人気を誇ったのがタイガーマスクである。
当時の新日本プロレスではアントニオ猪木、藤波辰巳、長州力の3人が主軸として君臨していたが、タイガーマスクは子供からの人気も高く別次元の人気だった。その「中の人」たる佐山サトルの半生を描いた書である。もともと佐山は格闘技をやりたかったのだが、海外武者修行の後にタイガーマスクにさせられてしまい、プロレスを続けざるを得なくなった。さっさとやめて自らが追い求める道を進もうと考えるも、大ブレークによりそれもかなわぬ夢となり、結局は電撃引退に至る。
それからのUWF参戦、修斗立ち上げなどにも話は及ぶが、「虎ハンター」小林邦昭の話が興味深い。小林はタイガーのライバルとして名高いが、当時彼は危機感を覚えていたというのだ。「虎ハンター」になった理由を本人がこう述べている。タイガーが人気者になり、長州力がいわゆる「噛ませ犬事件」を起こし、一段階上のレベルに到達した頃の話だ。
「ああ、これで長州選手は行くなと。一発で光っちゃった。向こうで修行して、一緒に帰ってきて、ポーンと行った。自分は置いていかれると思った。もう危機感ですよ」
「殻を破るには、誰かに絡むのがいい。絡むのならば大ブレークしている人間。佐山は猪木さんを超えるぐらいの勢いがあった。これは佐山に絡むしかないと」
当時小学生だった私は小林という希代の悪党が正義のヒーロー・タイガーを敵視するばかりか、マスクを破ろうとするなど人でなしクソ野郎だと思っていた。タイガー引退後、小林はいぶし銀的なレスラーとして活躍を続けて嫌いではなくなったものの、タイガーと戦っている時は憎たらしくて仕方がなかった。
だが、それも彼本人が自分の生き残りのためにやっていたことが分かり、小林の人間くささがようやく理解できるようになった。
それにしてもプロレス関連の書を読むと毎度登場するのが「カネ」にまつわるだらしない話の数々だ。本書でも新日本プロレスの社長である猪木が余計なカネを使い過ぎて選手の給料が安くなり、クーデター騒動が勃発したことなどが描かれている。プロレス全盛期から総合格闘技開始までを知りたい人はぜひ読まれたい。 ★★★(選者・中川淳一郎)