「能面検事」中山七里著

公開日: 更新日:

 大阪地検1級検事・不破俊太郎。見たところ30代後半、髪をぴっちりと後ろになでつけ、仕立てのいいスーツを着ている。一分のスキもない。特筆すべきは、何があっても表情筋を1ミリも動かさないことで、陰で能面と呼ばれている。

 そんな不破の検察補佐に配属された新米検察事務官の惣領美晴は、初対面でいきなりダメ出しされ、胸の内を全て読み取られて動揺する。

 感情を全く表さない切れ者検事と、喜怒哀楽がすぐ顔に出る新米事務官。両極端な2人が、コンビを組んで、ある殺人事件を担当することになった。深夜、西成区のアパートで男女2人がナイフで刺されて殺された事件で、世間を騒がせていた。

 被害者の女性は、以前からある男につきまとわれていたこと、その男にアリバイがないことなどから、警察はストーカー殺人と判断。同居していた男は巻き添えになって殺された、と思われた。

 しかし、不破検事が精緻な捜査を行ううちに、事件は違う様相を見せてくる。実は被疑者にアリバイがあることが証明されただけでなく、捜査資料の一部が紛失していることが発覚。大阪府警を揺るがす大スキャンダルにつながっていく。

 孤立を恐れず、みじんも忖度せず、組織の論理も完全無視。淡々と、無表情に自分の流儀を貫く。切れ味鋭いニューヒーローの胸のすく活躍に拍手。(光文社 1600円+税)


【連載】ベストセラー読みどころ

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…