「能面検事」中山七里著
大阪地検1級検事・不破俊太郎。見たところ30代後半、髪をぴっちりと後ろになでつけ、仕立てのいいスーツを着ている。一分のスキもない。特筆すべきは、何があっても表情筋を1ミリも動かさないことで、陰で能面と呼ばれている。
そんな不破の検察補佐に配属された新米検察事務官の惣領美晴は、初対面でいきなりダメ出しされ、胸の内を全て読み取られて動揺する。
感情を全く表さない切れ者検事と、喜怒哀楽がすぐ顔に出る新米事務官。両極端な2人が、コンビを組んで、ある殺人事件を担当することになった。深夜、西成区のアパートで男女2人がナイフで刺されて殺された事件で、世間を騒がせていた。
被害者の女性は、以前からある男につきまとわれていたこと、その男にアリバイがないことなどから、警察はストーカー殺人と判断。同居していた男は巻き添えになって殺された、と思われた。
しかし、不破検事が精緻な捜査を行ううちに、事件は違う様相を見せてくる。実は被疑者にアリバイがあることが証明されただけでなく、捜査資料の一部が紛失していることが発覚。大阪府警を揺るがす大スキャンダルにつながっていく。
孤立を恐れず、みじんも忖度せず、組織の論理も完全無視。淡々と、無表情に自分の流儀を貫く。切れ味鋭いニューヒーローの胸のすく活躍に拍手。(光文社 1600円+税)