「ゴリラからの警告」山極寿一著

公開日: 更新日:

 農耕牧畜の出現以降、産業革命や情報革命を経て、人工的な環境で暮らすようになった人間という種。五感や体を使うことより通信機器を通じて頭でつながることを重視するようになった結果、その変化に人間の体と心がついていけず、さまざまな問題が起きている。本書は、長年ゴリラ研究を通じて人間の起源を探ってきた著者による、ゴリラの目から見た人間社会の実情に迫った警告の書。日常の中にヘイトスピーチが入り込み、形ばかりの民主主義国家に変質する共同体や国家の問題点にまで言及していく。

 たとえば、ゴリラの世界ではオスを中心に数頭のメスと子どもで群れをつくっている。

 オスの体重はメスよりも2倍近くあるが、必ずしもリーダーの後を他のゴリラがついていくわけではない。互いにブウブウとうなりながら行きたい方向を示し、希望の多い方向へと群れが誘導されていき、それがゴリラの社会の民主主義なのだという。

 一方の人間はどうか。議会機能が低下し、情報共有がなされず、政治的な駆け引きや暴力的な解決策が優先される今こそ、ゴリラに学ぶべきではないかと警鐘を鳴らしている。 (毎日新聞出版 1400円+税)

【連載】ベストセラー読みどころ

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  2. 2

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  3. 3

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  4. 4

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  5. 5

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  1. 6

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  2. 7

    大阪万博を追いかけるジャーナリストが一刀両断「アホな連中が仕切るからおかしなことになっている」

  3. 8

    NHK新朝ドラ「あんぱん」第5回での“タイトル回収”に視聴者歓喜! 橋本環奈「おむすび」は何回目だった?

  4. 9

    歌い続けてくれた事実に感激して初めて泣いた

  5. 10

    フジ第三者委が踏み込んだ“日枝天皇”と安倍元首相の蜜月関係…国葬特番の現場からも「編成権侵害」の声が