「想い人」諸田玲子著
主人公は、天保9年の大火で、女房のお袖が行方知れずになった過去を持つ瓢六。
一時は生きる気力さえ失っていたものの、8年の歳月を経てどうにか表面上は昔に戻ったかのような生活を送っていた。
そんなある日、借家があった小出家という旗本の家に火事が出た余波で、小出家が引っ越すことになり、瓢六も住まいを新しく探さなければいけなくなった。どこに引っ越そうかと迷っていたとき、耳にしたのは「梅の木を眺めているお袖そっくりの女を見た」という話。
昔のことは忘れて、憧れの人となった武家の娘・奈緒のことでも考えながら暮らそうと決めていたのに、結局お袖と暮らしていた冬木町に引っ越してくることになったのだが……。
本書は、元悪党ながら頭の切れる色男・瓢六の人生を描いた人気の「瓢六シリーズ」第6弾。
亡くなったと思っていた妻と似た女の出現で心を揺らす瓢六の物語を軸として、人が人を思う気持ちの切なさと喜びを温かな視線で描いている。
(文藝春秋 1550円+税)