「一億円のさようなら」白石一文著
主人公は、52歳の加能鉄平。長年勤めた医療機器の会社をリストラされ、落ちのびるようにやってきた福岡で、父方の祖父が創業した化学メーカーに再就職し、なんとか落ち着いた日々を取り戻していた。
そんなある日、妻・夏代の留守中に、東京の弁護士からの電話を受け、信じられない妻の秘密を知った。それは、30年前に妻は伯母から巨額の遺産を相続していたということ。一部は株式運用され、現在総額で48億円もあるという。
結婚して20年、リストラや住宅の購入、子どもの大学進学など、金さえあれば手が打てたことがあったのに、なぜ妻はそんな重大な事実を隠したのか。不信感がにわかに湧き上がった鉄平に、妻は1億円を渡して鉄平の前から姿を消した。
果たして、鉄平はどんな決断を下すのか……。
「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」で山本周五郎賞を、「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞した人気作家による最新作。思わぬ妻の秘密を知った主人公が、そのことをきっかけに家族や社内の知られざる事実と向き合い、1億円の使い道と共に自分自身の生き方を問い直す様子が描かれている。
(徳間書店 1900円+税)