「重ね地図で読み解く京都1000年の歴史」谷川彰英監修
大阪の小中高の遠足は、京都に行くことが多い。目的地の大抵は神社仏閣であり、代表的なところでは八坂神社や清水寺、銀閣寺といったところであるが、クラスの中の歴史好きが、歩きながらところどころで、ここぞとばかりに知識を披露して、「おまえ、よう知ってるのお」と称賛を得る。そんな記憶がたくさんある。
この本は、もちろん大人向けだが、その少年の役割をする京都ガイドだ。
鴨川を渡る現在の五条大橋のたもとに、弁慶と牛若丸の石像がある。けれども「京の五条の橋の上」の出会いは、この五条大橋ではなく、ずっと北に架かる現在の松原橋だった。数百年後に豊臣秀吉が新たに五条大橋を架けて、平安京から続く五条通の名を変えてしまったのだ。
そういう話は、祇園のどこの割烹が星いくつで、錦市場の漬物屋でうまい店はどこだ、といった類いのスポットネタではない。だからこそ、この「重ね地図」が大いに役立つのだ。
構成は「御所周辺」「東山」「京都駅周辺」「伏見・宇治」「とっておきの京都」とエリアで分け、「平安」「室町」「安土桃山」「幕末」「明治」と時代のハイライトをクロスさせる。
京都守護松平容保がいた会津藩屋敷跡が現在の京都府庁であり、その東300メートル先に長州藩が京都御苑に攻め込んで激戦になった蛤御門があり、はりや柱には今も銃弾の痕が残っている。南へ1キロ足らずにある大政奉還の舞台となった二条城は、世界遺産に登録されている。
長く都としての歴史を有す京都の町の、なにが変わってなにが変わっていないか。この本の地図を見て歩きながら説明を読むと、数々の歴史の大舞台をダイナミックに体験できるのだ。そのような「まち歩き」こそが京都観光の魅力であり、グルメやショッピングと同様に神社仏閣をスポットとして捉えてそこにアクセスするためのガイド本では不可能だ。
持ち歩きに便利な変型新書判サイズも良い。
(宝島社 1100円+税)