「柳は萌ゆる」平谷美樹著
盛岡藩の若き家老・楢山佐渡の波乱に満ちた半生を描く長編歴史小説だ。平谷美樹は小松左京賞を受賞してデビューした作家だが、「義経になった男」(全4巻)、「風の王国」(全10巻)などの時代小説でも知られる作家で、今回もたっぷりと読ませて飽きさせない。
前半は、盛岡藩内部の問題を克明に描きだしていく。背景となるのは、貧困と重税に苦しむ民が頻繁に起こす一揆だ。騒ぎをおさめるために藩の重臣たちは簡単に要求をのむ。そして一揆がおさまると反故、の繰り返し。つまり抜本的な解決策を誰も考えていない。そのことに不満の楢山茂太(のちの佐渡)はどうしたら一揆はなくなるのかを考える。そして藩の方針を変えていかなければならない。敵対する人間もいるから、彼の戦いも大変である。
しかし問題は、盛岡藩のことだけを考えていればいい、という時代ではないことだ。時は幕末。勤皇か佐幕か、そのことに関する藩の方針を決めなければならない。盛岡藩は結局、奥羽越列藩同盟に加わり、秋田戦争に敗れて、楢山佐渡も処刑されることになるのだが、そういう大きな時代の枠組みよりも最後は家族をはじめとする人間ドラマに焦点を合わせている。
ネタばらしになるので詳しくは紹介できないが、ラスト近くでは何度も目頭が熱くなる。「義経になった男」「風の王国」とは違うテイストだが、これもまた傑作だ。
(実業之日本社 1950円+税)