「悲願花」下村敦史著

公開日: 更新日:

 小学5年生の秋、幸子は両親と幼い妹・弟の家族5人で遊園地へ遊びに行った。その頃の両親は始終喧嘩しており、家には宇宙人のような怖い男が借金返済の催促にやって来て、息の詰まるような日々だった。だから、遊園地でのひと時は夢のように楽しかったのだが、家に帰ってきた晩、両親は家に火を放ち、一家心中を図った。

 ただ一人生き残った幸子は、息を潜めるように生きていた。そこへ桐生隆哉が現れ、これを機に人生を変えようと思う幸子だが、自らの過去を言い出せない。過去と決別すべく両親らの墓を訪ねた幸子は、そこで雪絵と出会う。雪絵は2人の娘を乗せた車で海に飛び込み、心中を図ったシングルマザーだった。

 雪絵に、自分を殺そうとした母親の幻影を見た幸子は、この運命的な出会いに衝撃を受ける。また偶然にもテレビであの宇宙人のような男・郷田を発見する。隆哉への恋、雪絵への憎しみ、郷田への復讐心と、幸子の心は大きく揺らめいていく……。

 無理心中の被害者と加害者という正反対の立場が交錯しながら、事件は意外な結末へとなだれ込んでいく。「闇に香る嘘」で乱歩賞を受賞した著者の最新ミステリー。

(小学館 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…