「闇に香る嘘」下村敦史著
69歳の村上は、透析が欠かせない孫の夏帆に腎臓移植するため検査を受けるが不適合と診断されてしまう。村上の娘で一人で夏帆を育てる由香里から移植された腎臓は拒絶反応を起こし、1年半しかもたなかったのだ。夏帆を救いたい村上は、岩手の実家で老母と暮らす兄の竜彦を訪ね、腎臓を提供してほしいと頭を下げる。
しかし、兄は適合検査さえ、かたくなに拒む。村上はそんな兄と話すうちに、次第に目の前の男が本当に自分の兄なのか疑念を抱き始める。戦後、満州で生き別れになった兄は中国残留孤児として27年前に帰国。母は兄と疑っていないが、41歳で盲目となった村上には確かめる術がない。
第60回江戸川乱歩賞受賞作の長編ミステリー。(講談社 780円+税)