「平成精神史」片山杜秀著
いよいよ近づく「平成」の終わり。書店にもフィナーレを告げる本が山積みだ。
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思想史家で音楽評論家で慶大教授。いかにも当代風の著者が本書で説くのは「天皇・災害・ナショナリズム」(副題)の三題噺(ばなし)だ。
そのためにまずは戦前までさかのぼり、右翼思想の大物で自称陽明学者の安岡正篤から説き起こす。さらに右傾化した作曲家・黛敏郎と日本会議へと論を進め、大正時代からのリベラル勢力に対抗する反動派の系譜に多くの筆を割いている。「平成」を題目にしながら熱く語られるのは「昭和」だという矛盾。それが逆に「平成」の空虚さを浮き彫りにするということだろうか。「ゴジラ」や「日本沈没」「エヴァンゲリオン」などサブカルへの言及も多く、昭和が小松左京のSFや司馬遼太郎の歴史小説が人気だったのに対して、平成はホラーとゲームばかりと指摘している。
(幻冬舎 900円+税)
「平成くん、さようなら」古市憲寿著
テレビでの毒舌でも知られる若手社会学者「初の小説」というのが、うたい文句。安楽死が合法化された近未来の日本。大学の卒論が出版され、テレビで名を売った「平成くん」は性的接触が嫌いで極度の偏食。徹底した合理性とクールが持ち味だが、平成の終わりとともに自分も安楽死すると言い出す。
混乱する恋人の愛。売れっ子漫画家だった亡父の遺産で何不自由なく暮らしている。物語は彼女の独白体で流行風俗が実名で登場するところなど“平成版なんクリ”といったところ。平成という不確かな時代にふさわしい小説。
(文藝春秋 1400円+税)
「平成の政治」御厨貴、芹川洋一著
「オーラル・ヒストリー」(聞き書き)を旗印に現存する日本の政治家への聞き取り調査をしてきた政治学者と、日経本紙のベテラン政治部記者がホストになって3人のゲストを迎えた鼎談(ていだん)集。
相手は米コロンビア大のジェラルド・カーティス、エコノミストで現政策研究大学院大学の大田弘子、逆に政治学者から熊本県知事に転身した蒲島郁夫の3氏。平成に急増した2世議員。選挙区は親の地元だが、自分は東京育ちで地元とは縁が薄い。また小選挙区になって党執行部の権限が増大し、議員の専門性も独立性もなくなった。要するに平成の政治は失敗だったのだ。
(日本経済新聞出版社 1800円+税)