「ノースライト」横山秀夫著
大手設計事務所で腕を振るっていた1級建築士の青瀬稔はバブル崩壊で職を失い、妻とも離婚。そんな青瀬を救ってくれたのが大学の同期の岡嶋。岡嶋の設計事務所で働き始めてしばらく後、吉野という施主が青瀬に「あなた自身が住みたい家を建ててください」と言ってきた。
そこで出来上がったのが信濃追分のY邸だ。北からの光を採光の主役に抜擢した斬新な木の家は建築雑誌にも取り上げられ、一躍青瀬の名を高めた。
ところが、Y邸には人が住んでいないという噂が耳に入る。
確かめに出掛けると、人が住んだ気配はなく、応接間に古めかしい椅子がポツンと置かれていた。
その椅子は、桂離宮など日本の美を再発見したドイツの建築家、タウトがデザインしたものらしい。なぜそこにタウトの椅子があるのか。そして施主の吉野一家はどこへ消えたのか。
一方、文化施設のコンペで所長の岡嶋がスキャンダルに巻き込まれてしまう……。
警察や新聞社を舞台にしたミステリーで定評のある著者だが、今回の主役は建築。著者の新境地を告げる力作長編。 (新潮社 1800円+税)