「シーソーモンスター」 伊坂幸太郎著
バブル景気に浮かれる昭和の日本。製薬会社のサラリーマン北山直人は、妻と母の嫁姑問題に頭を抱えている。2人は米ソ冷戦のごとく一触即発。医者の接待で疲れて帰宅しても、心休まるときがない。
お人よしで優しい直人と、美しく切れ味のいい嫁と、強くたくましい姑。平凡な家族に見えて、どこか普通ではない。嫁は姑の過去に疑念を抱き、密かに調べ始める。
表題作ともう1編、「スピンモンスター」の2編を収めた小説集。「スピンモンスター」の舞台は、監視化が加速し、AIが幅を利かせる2050年の日本で、近未来への風刺が効いている。
主人公は幼い頃、自動運転車で事故に遭い、両親と姉を亡くした。父の車が前の車に激突、激しくスピンした記憶がある。前の車にも同い年の少年が乗っていて、彼もまた1人だけ生き残った。同じ運命を背負った2人は同級生として偶然に再会、互いに反発する。やがてフリーの郵便配達人となった主人公は、天才科学者が残した手紙をその旧友に届けたことから事件に巻き込まれ、刑事になっていた天敵、かつての級友に追われる羽目になる。
どちらも、対立し、争わずにはいられない人と人を描きながら、やがて対立を超えた絆が見えてくる。アクションシーンやユーモアもふんだんなエンターテインメント作品。
(中央公論新社 1600円+税)