「シーソーモンスター」 伊坂幸太郎著

公開日: 更新日:

 バブル景気に浮かれる昭和の日本。製薬会社のサラリーマン北山直人は、妻と母の嫁姑問題に頭を抱えている。2人は米ソ冷戦のごとく一触即発。医者の接待で疲れて帰宅しても、心休まるときがない。

 お人よしで優しい直人と、美しく切れ味のいい嫁と、強くたくましい姑。平凡な家族に見えて、どこか普通ではない。嫁は姑の過去に疑念を抱き、密かに調べ始める。

 表題作ともう1編、「スピンモンスター」の2編を収めた小説集。「スピンモンスター」の舞台は、監視化が加速し、AIが幅を利かせる2050年の日本で、近未来への風刺が効いている。

 主人公は幼い頃、自動運転車で事故に遭い、両親と姉を亡くした。父の車が前の車に激突、激しくスピンした記憶がある。前の車にも同い年の少年が乗っていて、彼もまた1人だけ生き残った。同じ運命を背負った2人は同級生として偶然に再会、互いに反発する。やがてフリーの郵便配達人となった主人公は、天才科学者が残した手紙をその旧友に届けたことから事件に巻き込まれ、刑事になっていた天敵、かつての級友に追われる羽目になる。

 どちらも、対立し、争わずにはいられない人と人を描きながら、やがて対立を超えた絆が見えてくる。アクションシーンやユーモアもふんだんなエンターテインメント作品。

(中央公論新社 1600円+税)

【連載】ベストセラー読みどころ

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…