「ノーサイド・ゲーム」池井戸潤著
ベストセラー作家はホントにうまい。読み始めたらやめられず、一気読みである。まず、構成が秀逸だ。
本書は、企業小説として始まるのである。大手自動車会社のエリート社員君嶋が横浜工場の総務部長に左遷され、ラグビー部のマネジャーを兼務することになるのが物語の発端だ。とはいっても彼はラグビーの素人である。ズブの素人が低迷中のチーム再建を託されるわけだが、アマチュアスポーツが企業に支えられている現実が背景にあるので、このチームが勝つようになっても、はたして存続できるのかどうかわからない。そういう足元の不安というものが、このストーリーの底にある。こういう構成がうまい。
この手の小説の常套だが、敵方がはっきりしているのもいい。いや、明確な敵と、明確でない敵がいる。ネタばらしになるので、このあたりは詳述できないが、君嶋マネジャーはいろいろな敵と闘わなければならないのだ。この構造もいい。
それにしても大企業のラグビーチームの年間予算が15億円とは知らなかった。対して収入はほとんどなし。大赤字である。それでも企業の宣伝になればいいが、低迷したチームではその効果もなし。これでは予算削減、あるいは廃部、という話が出てきても不思議ではない。そういう逆境を、彼らは本当に克服できるのか――息をのんで試合の行方を、彼らの未来を見守るのである。
(ダイヤモンド社 1600円+税)