著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ノーサイド・ゲーム」池井戸潤著

公開日: 更新日:

 ベストセラー作家はホントにうまい。読み始めたらやめられず、一気読みである。まず、構成が秀逸だ。

 本書は、企業小説として始まるのである。大手自動車会社のエリート社員君嶋が横浜工場の総務部長に左遷され、ラグビー部のマネジャーを兼務することになるのが物語の発端だ。とはいっても彼はラグビーの素人である。ズブの素人が低迷中のチーム再建を託されるわけだが、アマチュアスポーツが企業に支えられている現実が背景にあるので、このチームが勝つようになっても、はたして存続できるのかどうかわからない。そういう足元の不安というものが、このストーリーの底にある。こういう構成がうまい。

 この手の小説の常套だが、敵方がはっきりしているのもいい。いや、明確な敵と、明確でない敵がいる。ネタばらしになるので、このあたりは詳述できないが、君嶋マネジャーはいろいろな敵と闘わなければならないのだ。この構造もいい。

 それにしても大企業のラグビーチームの年間予算が15億円とは知らなかった。対して収入はほとんどなし。大赤字である。それでも企業の宣伝になればいいが、低迷したチームではその効果もなし。これでは予算削減、あるいは廃部、という話が出てきても不思議ではない。そういう逆境を、彼らは本当に克服できるのか――息をのんで試合の行方を、彼らの未来を見守るのである。

 (ダイヤモンド社 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動