「訴訟王エジソンの標的」グレアム・ムーア著 唐木田みゆき訳
19世紀末のニューヨークを舞台にした物語である。描かれるのは、電流戦争だ。これはエジソンの会社がすすめる直流電流と、そのライバル会社ウェスティングハウスがすすめる交流電流の争いである。
直流電流の送電可能距離は短く、そのために遠くまで電気を届けるためにはいくつもの発電機を設置しなければならない。対して交流電流は、発電所から長距離の送電が可能になる。この2つの電力供給システムをめぐり、19世紀末に実際に「電流戦争」があり、それを小説として描いたのが本書なのである。
主人公は若き弁護士ポール。彼は、ウェスティングハウスに雇われてエジソンと対決することになるが、その切り札はエジソンに邪険にされ、過去に袂を分かった発明家ニコラ。この男の造形がまず鮮やかだ。とにかく言動が不思議な奇人なのである。
それとやはりエジソンの造形が際立っている。ライバル会社に勝つために訴訟を600件(!)も起こし、あの手この手で勝ち上がろうとする。時には犯罪も辞さないから結構イヤなやつだ。もっとも最後には、同情したくなっているので、それもこの小説の持ち味かも。本当の悪人はいつも別のところにいるものだ。
電球や電流のことがわからない読者でもたっぷりと楽しめるように書いているのもうまいし、読み始めたら一気読みするほどストーリー運びも秀逸だ。
(早川書房 1200円+税)